WSBK&鈴鹿八耐挑戦記 センサー編
こんにちは。 レース監督の加藤です。
今回はヨシムラレース車両についているセンサー及び制御の紹介と、活用の仕方について書
かせて頂きたいと思います。
前回バネレートとプリロードの選び方編でも掲載させて頂きましたが、サーキット等で走行さ
せている車両の状態の把握をする為に、車両には沢山のセンサーを取り付け、そのデータを
データロガーという簡単に言うとメモリーみたいな物に記録し、それをパソコンで解析ソフトを
使用して視覚的に確認出来るようにしています。
マシンのセッティングにおいて基本はライダーのコメントを頼りにするのですが、単純に「リア
が低く感じる!」と言うコメントに対し、実際にリアが低いのか?はたまたフロントが高いの
か?分かりませんよね。また、実際に速い!遅い!に対しての評価はライダーコメントからは
分かりません。そう!我々には客観的に評価できる方法が必要なのです。
しかも、ライダーには常に集中して限界付近で走ることが要求される分けでして、その為の手
助けにもなります。
近年のインジェクション車ではエンジン及び車両を常に安定した良い状態を保つ為に、ECU
(エンジンコントロールユニット)とそのECUが行っている制御が非常に重要となっておりま
す。市販車に於いては、環境に適合させる為に。レースに於いてはサーキットで速く走らせる
為に非常に複雑な制御となっていて、各チーム少しでもアドパンテージを得る為に必死です。
F1などでコントロールECUが導入され、全チーム均一化の流れとなっているのはこの競争を
抑える為です。
ロガー、ECUに関しては長くなりそうなので別の機会にさせて頂き、まずヨシムラレース車両
に付いているセンサーを紹介させて頂き、その役割等について書きたいと思います。
①水温センサー
*一般にサーミスタと呼ばれる物で、接点に2つの違う物質で出来た金属が貼ってあり、接
点の温度が変化すると抵抗値が変化します。
エンジンを適正に動かす為には非常に重要なセンサーです。特に始動時などの燃料噴射量
の決定に大きな役割をしています。
②吸気温度センサー
エアーボックスに取り付いており、吸気温度を計測しています。燃料噴射量の補正に使用さ
れます。
③吸気圧センサー
吸気圧センサーはインテークバルブとスロットルバタフライの間(吸気管)の中の圧力を計測
しております。
この圧力(負圧)から、エンジンに入る空気量を予測し燃料噴射量を決定します。これをD‐ジ
ェトロ制御と呼びます。
レース向けの制御としては下記に記しますα/N制御が一般的で、このDJはあまり使用されま
せんが(レスポンスが悪い為)、逆にα/Nでの問題点であるスロットルバタフライの極微開での
空気量の不安定さ(変化量が大きい)に対して有効であり、スロットル開度により上記2つの
制御を使い分けています。市販車では排気ガスの基準をクリアーする為に、このスロットル極
微開の制御は非常に重要ですね。
④大気圧センサー
*大気圧は、低地及び高地での燃料噴射量の補正に使用します。
皆さんも、山へ登ったときに息が苦しくなりボンベ酸素をすったりしますね?要はそんな感じで
す。補正値としては、高地になるにつれ噴射量を減量補正します。
⑤ギアポジションセンサー
*最近では制御も発達し、ギア別で色々な制御が出来る様になりました。
例えば、パワーのコントロールをする為に、ギアによって点火タイミングを変えます。そうでな
いと、近年のスポーツバイクの様に非常に高出力なバイクでは、1速や2速では簡単にスリッ
プしてしまいます。特にタイヤが温まっていない時は怖いですね。
GSX-RシリーズではMODE-SWとして、パワーコントロールしていますよね!
⑥転倒判別センサー
*転倒時にエンジン保護の為、自動的にエンジン停止する為のセンサーです。
レース車として改造する場合、取り付けが非常に難しいです。下手に取り付けると通常走行
時にエンジン停止してしまうなんて事も。
⑦ギアーシフトセンサー
*ロードセルと呼ばれるタイプです。
歪みゲージでシフトロッドから入力される圧力を計測します。
これにより、タイミングの良い所で点火カットを行いスロットルを全開のままシフトアップが可
能となります。
⑧クランク角度センサー
*インジェクション車ではこれが無いとすべてが始まりません。エンジン回転もこれから認識
しています。
非常に緻密なセンサーリングをしていて、どう言う事かと言うとトリガーと呼ばれる歯車の様な
物がクランクに取り付いており、その歯車の位置をセンサーで取り込み角度を認識している
のです。GSX-Rの場合は24歯-2歯となっており、例えばエンジン回転が12000rpmの時に1
秒間にそのトリガーは200回転しますね。その1回転に24歯な訳ですから200×24で、1秒間
に4800歯の位置を認識し、そこからその都度クランク角度を計算、それを元にそれぞれの
制御が行われるのです。
⑨カム角度センサー
*気筒判別に使用します。
クランク角センサーでは、クランク角度しか分からないのでカムシャフトにひとつ基準を設けて
これをセンサーが拾い、気筒判別しています。これにより、昔は当たり前だった、排気工程ピ
ストントップ付近での捨て火が無くなりました。
⑩前後車速センサー
*前後車輪にセンサーとトリガーを取り付けます。
車速を知ることはもちろん。ラム圧制御、トラクションコントロールなどにも使用します。
原理はクランク角センサーと同じです。
⑪空燃比センサー
*エンジン燃焼状態を確認する為のセンサーです。
レースで使用するものは全領域空燃比センサーと言う物でおおよそlambdaで0.6~1.3(A/F
で9~19)位の範囲で正確に計測できます。
一般にパワーが一番出るパワー空燃比は0.87(12.8)位ですが、鈴鹿八耐の時などは燃費優
先となるために理論空燃比lambda1.0(A/F14.7)に近い所で走らせることになります。したが
ってパワーは落ちるのですが、どの領域でどの程度調整していくかは?各チーム各エンジニ
アの腕勝負となり、スプリントとは違った一面で面白い所ですね。
ヨシムラレース車では各気筒にそれぞれ1本の計4本使用しています。皆さんが想像している
よりも各気筒でのバラツキは大きいのですよ。
⑩スロットルポジションセンサー
*通常レース用インジェクション車ではインジェクターから噴射するガソリンの量を決める為
に、α/N(アルファエヌ)と一般に呼ばれる制御をしています。
αは数学でよく出てきた角度、この場合スロットルバタフライの角度です。Nはエンジン回転数
のN。
縦軸にスロットル開度、横軸にエンジン回転と言う形で噴射量のマップを持っています。
⑪サブスロットルポジションセンサー
*GSX-Rシリーズ特有の物ですね。ドライバビリティ改善の為に通常のスロットルバタフライ
の後にステッピングモーターで動かせるバタフライを持っており、その為のセンサーです。
⑫前後サスペンションストロークセンサー
*まさしくサスペンションの位置を知る為のセンサーです。サスペンションに合わせて伸び縮
みします。
コーナー中のバイクの姿勢を見るために計測します。また、そのデータを微分するとサスペン
ションのスピードも分かります。これによりサスペンションの減衰仕様を検討します。
⑬フロントブレーキ圧センサー
*ライダーがどこでどんな風にブレーキを握っているのか?を知る為のセンサーです。
特に、ブレーキをどの程度強く握れているのか?又、どの様に離しているのか?はバイクの
セッティングの状態を知る為に非常に参考になります。
⑭オイル温度センサー
*ヨシムラデジテンでもおなじみですね。オイルの温度管理です。
⑮GPS
*ライン取り等が分かります。ライダーはミスが出来ませんね!(笑)
実車速も分かります。車輪からの車速との違いは、バンク時にタイヤの周長が変化したり、
高速走行時にタイヤが遠心力によって同じく周長が変化してしまう為に、実際の正確な車速
を表示しません。(F1等ではこの実際の車速を計測する為にピトー管と言うのを取り付けてい
ますね。)
前後車輪から取る車速は、自分は主に減速時のリアタイヤのスキッド量(スピン量)をみて、
セッティングに役立てています。
以上がヨシムラレース車に付いているセンサーです。すごい多いでしょ?
MotoGPやWSBKのファクトリーマシンには、もっと沢山のセンサーが付いていますが、我々
は必要最低限という事で選び抜かれたセンサー達です。
これらのデータをヨシムラではAIMと言うメーターディスプレイ一体型のデータロガーに取り込
み、AIMでリリースしている解析ソフトを利用しデーターの確認をしています。
これ、非常に使い易いです。
価格も他のモータースポーツ用のデータロガーと比べると、圧倒的に安価です。(解析ソフトも
フリーダウンロード)コストと性能のバランスが非常に良いのです。
データーのダウンロードはPCとロガー本体をケーブルで繋いで行い、時間が掛かってしまう
のが一般的ですが、AIMの場合、ヨシムラレーサーの様にUSBメモリーを取り付ける事がで
き、それをそのままPCに差し込むことが出来、時間の短縮とPCを持っての作業が減るので
大変助かっています。
今回も非常に専門的な内容となってしまいましたが、皆様にものづくりの楽しさを是非。
ありがとう御座いました。